これからの時代の「新任管理職の対話術」⑩

日本人は、やっかいな民族なのをご存知ですか?(column36)

現代は「不寛容な社会」になりつつあると思います。そして、何か問題が起こるたびにガイドラインが策定され、がんじがらめの中でビジネスを展開しなければならない。今回は、こうした中でどのように動けばよいのか考察します。

 

ガイドラインそのものが悪いわけではない

皆さんは、「ガイドライン」という言葉を耳にして、どのような印象をもちますか? 多くの方は、「面倒くさいもの」とお感じになるのではないかと思います。現代は、個人情報保護や、セクハラ・パワハラなど、様々な分野でガイドラインが策定されています。ガイドラインが増えれば増えるほど、「面倒くさいもの」がどんどん増えていくことになります(苦笑)。

 

ただ、個人情報保護という考え方がなぜ生まれたかというと、その扱いが不適切だったために損害や迷惑を被った人がいたからです。セクハラ・パワハラも同じで、それによって不快な思いをしたり、場合によっては人生を狂わされてしまうような事態が生じたりしたわけです。そうしたことが繰り返されないように、ガイドラインは策定されています。ですから、ガイドラインそのものが悪いわけではないのですね。

 

規定や規則、ガイドラインなどは、「策定」と「運用」という二つのプロセスに分けられます。一般的に、これらを策定する際には、ベースとなる「理念」のもとに、「現状認識」「課題の明確化」「望ましい姿」などを整理して、たいへんな手間と労力をかけて作ります。策定に携わる人たちには「このガイドラインを活かして、より良い職場になってもらいたい」といった使命感があるものです。筆者も同様の経験をしたことがあります。

 

しかし、これを運用する段になると、おかしなことになっていきます。ベースとなる理念などは理解されないまま、「これはOKか? アウトか?」という判断のためのガイドラインとしてだけ用いられる。

 

OKか否かの判断をする人は、後で非難されたくないので、かなり厳しめにジャッジしがちです。とくに日本人は、白か黒かハッキリしないとダメなところがあり、「グレー」がないから余計に厳しくなります。結果として、「ガイドラインが厳しくて何もできない」という状態になってしまいます。

 

権限や権力で動かすのがむずかしい「やっかいな民族」

ここで、少し話を変えます。新任管理職の皆さんは「管理職になってから、メンバーとの関係がややこしくなった」とお感じになっていませんか? 先輩・後輩の間柄だった時はなんともなかったのに、上司・部下になった途端にギクシャクし始めた。こんなことはありませんか?

 

このようなことが起こる原因として、ひとつ理解してほしいことがあります。それは、「日本人は、権威や権力を異常なほど嫌う民族だ」ということです。わかりやすく言うと、「エラそうなヤツが大嫌い」なんですね。

 

たとえば、皆さんは「政治家」「社長」「理事長」などと聞いただけで、なんとなく嫌悪感を覚えませんか? 「オーナー社長」なんて、もうそれだけで極悪人みたいに思えてくる(笑)。関係者の方には申しわけありませんが、今回の日大の騒動などは、まさに「役者がそろっている」感じがします。理事長や専務理事という肩書のエラそうなオジサンを見ると、皆で寄ってたかって「やっつけたくなる」わけです。

 

「世界価値観調査」というものがあります。世界80カ国以上において、政治や宗教、仕事、教育、家族観などを調べるもので、1980年代から定期的に行なわれています。2005年に行われた調査において、「権威や権力が尊重される世の中を好ましいと思うか」という設問がありました。日本人はこれに対して世界一否定的で、なんと3.2%の人しか理解を示しませんでした。

 

「権威や権力が尊重される」ということは、それだけ秩序が保たれやすいということです。そのため、他国を見ると、フランスで84.9%、英国で76.1%、オランダで70.9%、米国で59.2%、ドイツで49.8%、中国で43.4%の人が、権威や権力が尊重されることに理解を示しました。3.2%の日本とは、ずいぶん大きな差がありますよね。

 

たしかに、権威や権力は腐敗しやすいので監視や牽制が必要だし、権力者の横暴は許されるべきではありません。しかし、だからと言って、ここまであからさまに権威や権力を忌み嫌う必要はないはずです。こうした日本人の特性について、「戦争体験があったから」「ねたみ・ひがみが強いから」などと様々な原因が指摘されていますが、ここではそこに踏み込まないことにします。ただ、「日本人は世界的に見てダントツで権威や権力が大嫌いな民族なのだ」ということは認識しておいてください。

 

この話をすると、皆さん意外に思われるんですよね。「日本人は、素直で上の人の言うことをよく聞く民族だ」と思っている人が多い。これ、とんでもない誤解です。私は中国でもビジネスをしています。日本人より中国人のほうが部下として扱いやすいと思います。中国人は、自己主張は強いけど、ガツンと言って納得させれば素直に従います。日本人は、自己主張せず表面上は穏やかだけど、腹の中では何を考えているのかわかりません。皆さん、日本人にだまされてはいけませんよ(笑)。

 

日本人を動かすため、ガイドラインを活用しよう

 こうした「やっかいな日本人」をマネジメントするのには、まず「良き理解者・相談相手になること」が大切です。しかし残念ながら現実には、良き理解者・相談相手になるだけでは対処できない「問題のある部下」が存在します。そのような部下に対しては、処罰したりマイナス評価を下したりするなど、厳しい対応をする必要があります。このような時、ガイドラインは大変便利で有り難い存在になるのです。

 

権威や権力を嫌う日本人は、必然的に権限や権力で動かされることを嫌がります。たとえば、「私の判断で、こういう処分をした」と言ってしまうと、部下に逆恨みされる危険性があります。このような時は、「ガイドラインに抵触したので、こういう処分をした」と言ったほうが角が立ちません。ちょっと腹黒い感じがしますが、これが現実的な対応です。

 

ここで大切なのが、様々なガイドラインについてよく理解しておくことです。ガイドラインを「面倒くさいもの」と避けて通らずに、積極的に勉強して活用できるようになりましょう。

 

とはいえ、ガイドラインの条文を読み込んで理解するのは大変ですよね。そこで、お勧めしたいのが、ガイドラインの策定に関与した人に話を聞きにいくことです。こう言うと、「そんなこと、できるのかな?」とお感じになるかもしれませんね。でも私の経験上、「ガイドラインのことをよく理解したいので、お話を聞かせてもらえませんか」とお願いすると、ほとんどの人は快く時間をとってくれます。前々回にお話しした「理由とセットで依頼する」という方法ですね。

 

そうして直接お話を伺うと、ガイドラインの本質がよくわかるものです。やはり物事は、枝葉の部分よりも本質を理解するのが得策です。本質を理解すれば、細かい部分はある程度想像することができます。

 

もうひとつ、ガイドラインは自分の身を守ることにも使えます。たとえば、何かの過失を問われた時に、「私はガイドラインを守った」と主張することで、不可抗力であることを訴えることができます。ガイドラインは、使いこなせるようになると「なかなか便利なもの」なんです。私は、「日本においては、権力や権限よりもむしろガイドラインのほうが使い勝手が良いのではないか」と考えています。

 

ガイドラインの策定に関与した人に話を聞きにいく際には、いきなりアポイントをとるよりも、やはり知り合いに紹介してもらうほうがスムーズに進みます。新任管理職の皆さんにとって、こうした社内外の人脈を形成することは、とても大切だと思います。そこで次回は、人脈の形成で重要な「また会いたい」と思わせる心理メカニズムについて考察します。