これからの時代の「新任管理職の対話術」③

マネジャーの役割は管理・監督から触媒へ(column29)

前回は、大きな時代の流れを見ましたが、今回はここ数十年の時代の流れを見ていきます。特に、新任管理職の皆さんにとって関心のある「マネジメントスタイルの変遷」について詳しく見ていきたいと思います。これからの時代は、かつてのマネジメントスタイルが通用しなくなります。では、どうすればよいのか考察します。

 

高度経済成長~バブル期のマネジメントスタイル

 前回、「明治維新後の130年間は、日本の人口が爆発的に増大した異常な時代だった」とお伝えしました。特に、戦後の高度経済成長~バブル期は、人口が急増しビジネスがどんどん拡大した「いい時代」でした。「いつかはクラウン」「24時間働けますか」という、当時流行したコピーが示す通り、「人口急増・画一的社会の中で、よいモノを作って頑張れば売れる時代」だったわけです。

 

 

この当時のマネジメントスタイルは、いわゆる「上意下達型」でした。経営者が具体的な指示・命令を下ろし、中間管理職はそれをメンバーに伝える。そして、メンバーから上がってきた報告・連絡を経営者に伝える。このスタイルだと、中間管理職が行うマネジメントはそれほど難しくありません。ほとんど「メッセンジャー」のようなものですから。筆者は30年ほど前に社会人になりましたが、今思うと当時の上司たちは「上から下りてきた指示・命令」を「やれ!」と言っていただけでした。「やれ!」だけが自分の言葉です(笑)。

 

まあ、実際にはメンバーが思い通りに動かずに「上と下の板挟み」になったりして、当時の中間管理職にもそれなりの苦労があったと思います。だから、当時のマネジメントは「心を鬼にして、いかに徹底度を高めるか」が大切だったのです。実際に、上意下達の徹底度が高い企業ほど業績がよく、対外的にも優良企業だと称賛されていました。

 

バブル崩壊~停滞期のマネジメントスタイル

90年代になってから、いわゆる「バブル崩壊現象」が起こり、95年から日本経済は停滞期に入ります。97年には山一證券が破綻し、さらにアジア通貨危機などが発生したことから、それこそ一気に暗雲が立ち込めてきたような感じでした。

 

こうした中で、企業は防衛的な経営に移行していきます。売上が伸びない中で、なんとか利益を出そうとして、「省力化・合理化・コストダウン」に血眼になりました。この当時に普及したのが「数値目標徹底型マネジメント」です。

 

経営者は、なるべく具体的な数値目標を設定して現場に下ろすようになりました。そして、中間管理職はどうなったかというと、「不在」というより「消滅」してしまいました。では、どこに行ったかというと、現場に下りて「プレイングマネージャー」になったわけです。

 

プレイングマネージャーは、数値目標がハッキリと下ろされているため、どうしても目先の数字を追いかけるようになります。そのため、メンバーの育成やケアなどは後回しになり、「とにかく売れるものを売る」「数字の辻褄を合わせる」ことに懸命になりました。

 

現代の日本企業の多くが、この「数値目標徹底型マネジメント」を取り入れています。それから、まだ「上位下達型マネジメント」が残っている企業も少なくありません。以前は、上意下達の徹底度が高いほど優良企業でしたが、現在の日本でそれをやっている企業は「ブラック企業」と呼ばれるようになりました。

 

では、これから求められるマネジメントスタイルとは?

すでに、日本は人口急減・多様化社会が始まっています。こうした世の中では、顧客のことを深く理解して、それに柔軟に対応することが必要です。私見ですが、これからの時代は「抽象と具体をつなぐマネジメントスタイル」が求められると考えています。

 

経営者は、理念・方針をトップダウンで下ろします。これは抽象的な内容ですよね。そして、顧客に近い現場のほうから具体的な実行アイデアが上がってきます。マネージャーはそれを見て、「これはすごく儲かりそうだけど理念に反するなあ」とか「アイデアとしては弱いけど、理念・方針には合致しているから、なんとか形にしていこう」などと「理念・方針と実行アイデアをつなぐ」わけです。

 

こうした動き方は、これまでの「管理職」というイメージとは少し違いますよね。私はこれを「触媒役」と呼んでいます。触媒というのは、化学反応の際に、それ自身は変化せず、他の物質の反応速度に影響を与える物質のことです。たとえば、白金は水素ガスと酸素ガスを反応させて水を生成する速度を高めます。ビジネスにおいても、マネージャーという触媒役がいることによってメンバーの仕事が加速するのが望ましいわけです。

 

「管理・監督」は、世の中がどんどん伸びて湧き上がっていくような時代に、メンバーが好き勝手をして脇に逸れたり悪いことをしたりしないようにする行為です。これからの時代は、放っておくと縮小する時代ですから、こうしたことをやると「せっかくのビジネスの芽」を摘んでしまいます。これからのマネージャーに求められるのは、「管理・監督」ではありません。「触媒役としての機能」です。

 

触媒役として大事なことは「興味深そうに聞くこと」

では、触媒役として機能するにはどうすればよいのでしょうか。それが「聞くこと」なのです。こういうと「ああ、コーチングね」とわかったような顔をする人が多いのですが、そんなに難しいことをしなくて結構です。「部下のアイデアを、ただ興味深そうに聞いてあげればいい」のです。

 

おそらく、これを読んだ人は「ただ興味深そうに聞くなんて、そんな簡単なことでいいのかな?」と疑問に思われるかもしれませんね。でも、「マネージャーが部下のアイデアを興味深そうに聞く」って意外なほどビジネスの現場で行われていないのです。「聞くこと」は本当に万能薬ですから、これをきちんと実行すれば部下が元気になるなど様々な効果が得られますよ。

 

ここで、興味深そうに聞くことで見事に触媒役を果たしている、わかりやすい例を挙げましょう。それはタモリさんです。若い方はご存知ないかもしれませんが、タモリさんは元々強い個性の芸風で、あまりお昼の時間帯に向いている方ではありませんでした。それが、「笑っていいとも」という番組のMCに抜擢され、試行錯誤しているうちにガラリと変わったのです。

 

「笑っていいとも」は、生番組として長寿だったことで有名ですが、そこから数多くの名コーナーが生まれ、たくさんのスターを輩出しました。この番組で、タモリさんは「俺が・俺が」と引っ張るのではなく、各コーナーを担当するタレントさんたちの個性をそれぞれ活かしながら番組を作り上げていきました。その際にやっていたのが、「興味深そうに聞く」だったのです。

 

最近では、「ブラタモリ」という番組が人気です。この番組も、タモリさんが「興味深そうに聞く」ことで成り立っています。とても博識な方ですが、それをひけらかすのではなく、地元に詳しいガイドさんの説明を聞くようにしています。ガイドさんも、タモリさんに興味深そうにされると、ついつい頑張って説明をします。さらに、この番組は女性アナウンサーの登龍門になっていて、皆さん番組卒業後に活躍されています。触媒役としてのタモリさんは、本当に素晴らしいといつも感心して見ています。

 

部下にとって、上司に自分の話を興味深そうに聞いてもらうと、それだけで嬉しいし、聞いてもらうことで考えがまとまったり気持ちが整理できたりします。せめて週に一回10分程度でいいですから、部下の話を興味深そうに聞いてあげてください。最近では、「1on1ミーティング」と呼んで制度化する企業も増えてきました。とてもお勧めですので、さっそく実践してみてくださいね。

 

 

今回は、ここ数十年のマネジメントスタイルの変遷を見てきました。次回は、「世代間ギャップ」について見ていきたいと思います。私たちは、世代によって「まったく異なる風景」を見ています。そのことを理解しないと、いつまで経っても「わかり合えない」ことになります。そこで、どのような世代間ギャップがあるのかを認識し、「では、どうすればよいのか」を考察していきます。